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静岡家庭裁判所沼津支部 昭和50年(少ハ)1号 決定

本人 G・H(昭二九・一〇・九生)

主文

本人を昭和五〇年七月一五日まで特別少年院に継続して収容することができる。

理由

(本件申請の要旨)

本人は昭和四九年六月二五日当裁判所において強盗致傷非行などにより、特別少年院送致の決定を受け、翌二六日小田原少年院に入院し、その後船員となることを希望したのが契機となつて同年一〇月一五日上記住居地所在の新光学院に移送され、海洋生として海洋甲板科に編入されて矯正教育を受けているものであるが、新光学院に移送されてからその成績は順次向上し一応中位の成績を維持しており、これからも向上することが予測されるものの、最高の処遇段階である一級の上に達したのは昭和五〇年五月一日のことであるうえ本人の希望している船員として再出発するのに必要な丙種航海士、丙種船長の資格を取得するために必要な国家試験を受験させ、これに合格した後出院教育をしてから出院させることが頻回転職の間に再三にわたつて非行を犯している本人の更生のために必要であると思料されるので、本人が特別少年院に送致する旨の決定を受けた日から一年間を経過した後においても同年七月一五日までの二一日間引き続いて矯正教育のため少年を特別少年院に収容する必要がある。

(当裁判所の判断)

本人は上記のとおりの経過を経て新光学院において矯正教育を受けているものであるが、それ以前にも高校中退後の不安定な生活状態下における頻回転職の間に窃盗を中心とした非行を持続していたため、大阪家庭裁判所において二回にわたり観護措置決定により大阪少年鑑別所に収容され、保護観察などの処分を受けたのに、手に職のないところから意思薄弱で刹那的快楽を求める本人の性格的負因の影響もあつてさらに転職を続け、その間に上記強盗致傷などの非行を重ね、上記の特別少年院送致決定を受けたのであつて、本人に対する矯正教育の中心は専門技能の取得と性格的負因の自覚に基づく勤労意欲の持続にあると思料され、これなくして同学院を退院した場合には上記と同様に頻回転職の間に窃盗を中心とした非行を犯すおそれがあると認められるところ、本人においてもこのことを充分に認識し、上記本籍地の地理的条件を考慮して船員としての専門技能を取得することを希望し、上記甲板科に編入されて専門的教育を受け、上記両試験に合格することを目差して努力し、昭和五〇年四月一九日には丙種航海士の学科試験に合格し、同年七月三日ころ行われる丙種船長の試験を目差して努力を続けており、これにも合格する可能性は充分にあるのであつて、それから同月一〇日過ぎの合格発表をまち、退院するまでに両資格を取得させ、それから若千の出院準備教育をしてから退院させるのが本人の更生のために必要なことであり、かつ本人を一年間の経過によりそのまま退院させ、退院した後に本人の独力によつて残つている丙種船長の国家試験を受験させ、合格をかちとらせることはその専門特殊的職種にかんがみ困難であると思料され、これらのことを同学院内で行つても同年七月一五日までの二一日間収容を継続することで充分であると認められる。

(結論)

そうすると、本人の性格的負因の影響を受け頻回転職の間に窃盗を中心とした非行を犯すおそれは上記の両試験に合格し資格を取得することとそれに伴う自信により相当程度に解消されると認られるのであつて、その限度において本人の有する犯罪的傾向はいまだ矯正されていないものというべく、本人が収容されてから一年間を経過したからといつてこのまま退院させるのは適当でなく、その後においても継続して矯正教育を行うのが相当であり、その期間としては本人が昭和五〇年五月一日に最高の処遇段階である一級の上に達していることや丙種船長の合格発表時期などを考慮すると、申請どおり同年七月一五日までの二一日間とするのが相当であるから、少年院法一一条二項、四項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 中山博泰)

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